陶片からすべてを学んだ李荘窯

- Arita-cho, Saga

「まるぶん」と取引のあるいくつもの窯元のなかでも、篠原さんが全幅の信頼を置く盟友が寺内信ニさん。「李荘窯」の4代目だ。その卓越した技術と、確かな感性に惚れ込んで、李荘窯にオリジナルの器を依頼する料理人はとても多いと聞く。
陶房の2階の明るいショールームには、精緻な絵付けの色絵や、古典柄の染付の器から、シャープでモダンなフォルムの作品まで、多彩な器が並んでいる。

李荘窯の成り立ち

上:磁器の祖である李参平の住居跡に、初代が李荘工房を開いたのが、現在の李荘窯のおこりとなっている。
下左:初代が製作した観音像をモチーフに、現在も作り継がれている白磁の観音像。
下右:毎日の仕事に感謝し、お供えも欠かさない。

「李荘窯の名前の由来は何でしょうか?」と長尾さん。
「実は初代が、曽祖父ですが、有田の陶祖・李参平の居住跡に住居兼陶房を構えたのです。その名前からです」と寺内さん。初代の寺内信一は工部美術学校でイタリア人のラグーザ教授より美術彫刻を学び、明治15年に卒業した後、瀬戸や常滑、有田、中国などで各地で美術の教育者を歴任し、帰国したのち、明治31年に、この地に住居を構えた。観音菩薩像などの磁器彫像の制作を手がけ、李三平の名にあやかって李荘工房と名付け、製陶業の基礎を作ったのだという。
「ここにある観音菩薩像は、曽祖父の作ったものの写しです。艶やかな生地と端正な細工が美しいでしょう」と誇らしそうだ。

上左:陶片を前に、李荘窯の成り立ちと抱負を語る4代目の寺内信二さん。
上右:寺内氏がすべてを学んだという、窯跡から発掘された初期伊万里の陶片。
下左:しのぎと染付の繊細な白磁のぐい呑み。
下右:素焼き下上に呉須で古典的な紋柄を描いたもの。

古窯の陶片から陶技を学ぶ

寺内信ニさん自身は、武蔵野美術大学を卒業後、4年ほど東京の食器の卸商社に務め、故郷に帰り、後継者として家業を継いだ。25年前の帰郷当時の「李荘窯」は、徳利や盃などの割烹食器をメインに作っていて、その反動もあり、唐津や有田、また全国各地から土を取り寄せて、土ものの試作に没頭した。大学で学んだ、手を通した創造性を求めて。
ところが、「あるとき、土のぬくもりを感じる磁器に出合ったのです。それが17世紀の初頭に作られた初期伊万里でした。以来、夢中で研究しましたね。そうなると、今まで欠点だと思っていた部分が強みになる。なにしろ、食器は使用頻度の高いものですから、やはり、磁器の強度というのは利点なんですね」と、寺内さんは言う。気づけば、李荘窯の裏には、古窯、天狗谷窯跡が控えている。窯跡を少し歩けば、今でも、初期伊万里の陶片がたくさん埋もれている。「何百年にも及ぶ先人の知恵の結集なんだと、目を開かれる思いでした。目指すべきものがすべてそこにありました」。寺内さんはそれらを一つ一つていねいに調べ、生地や絵の具、釉薬の配合から、文様や筆使いまですべての陶技を陶片から学んだという。歴史的にも、北大路魯山人、荒川豊蔵、中里太郎右衛門(12代)、西岡小十など、陶片派とよばれる偉大なる陶芸家たちは多い。

天狗窯跡を訪ねて

さっそく工房の裏山にある天狗窯跡を案内してもらった。有田地区でも、最大クラスの窯跡だ。寺内さんについて、全長70mの窯跡を頂上まで登ると、なんとも見晴らしがいい。胸いっぱに空気を吸い込むと、遠い昔へタイムスリップするようだ。上る道々には、まだ、たくさんの陶片が埋もれており、何百年という時を経て、私達に何かを語りかけてくれているようだ。
「実際に陶片を目にし、触れてみると、確かに力を感じますね。陶片が教えてくれるという寺内さんの言葉がリアルに響きます」と長尾さんもその魅力を実感する。

上:日本で初めて磁器が焼かれた窯の一つと言われている天狗谷窯。有田が磁器生産を本格的に展開していく初期の窯です。李参平が泉山で陶石を発見したあと、水と薪に事欠かない、白川天狗谷に窯を築いたのだ。
下左:きれいに整備された窯跡は、今では観光スポットに。
下右:整備されていない山肌には、まだまだ陶片が埋もれている。
上左:李荘窯の工房の風景。左手前に写っているのは、今も現役の、三代目。 
上中:銀座の名店「六雁」とのコラボレーションで完成した球形のお重。 
上右:いくつものパーツに別れた、盛りやすいお重。華やかなおせちをぎっしり詰めて。
下左:素焼きした球形のお重に、定規で丁寧にラインをひいていく。 
下中:呉須絵の具を二重、三重に重ねることで、色の濃淡を表現。
下右:寺内信二さんが個展に向けて準備している作品。月の満ち欠けを表現した酒盃

工房での精緻な作業を見学

美しい窯跡を後にして、工房を訪れると、そこでは、銀座の和食店「六雁」と共同開発した球形のお重の製作が佳境を迎えていた。塗り分けるためのラインをひき、呉須を塗りこみ、7人いる職人は手を休める暇もない。なにしろ納期は12月20日。訪れた12月初旬には、納期まであと10日あまりと、追い込み作業だ。一方、信ニさん自身は、個展に出品するための器作りに追われる。月の満ち欠けを表現したという酒盃は、光によって表情を変え、美しい。「お酒の水面に月を映して飲んでみたいんですね」と長尾さん。ロマンチックな思いに駆り立てる器だ。
李荘窯の器作りはまさに、温故知新。古典を尊ぶと同時に.新しきを知り、これからの時代を牽引する器作りを目差している。

李荘窯

佐賀県西松浦郡有田町白川1-4-20
tel 0955-42-2438
www.risogama.jp


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