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長尾智子が訪ねる 九州の器 温故知新 第四回 有田焼[佐賀] >

有田発、唐津着 独自の道を歩む天平窯

有田発、唐津着 独自の道を歩む天平窯

- Karatsu-shi, Saga

料理人に実に人気のある陶芸家だ。なにしろ、盛りやすくて盛り映えがする。絶妙な力の抜け加減の上に立つ趣味のよさが、愛される所以だろうか。
1958年長崎県佐世保に生まれ、佐賀県立窯業試験場に学び、肥前諸窯に勤務したのち、西有田で独立。2003年に唐津市浜玉町に移転、築窯し、奥様のさつきさんやお弟子さんと精力的に作品を作り続けている。唐津に移転した理由を尋ねると、「有田ではひとが来すぎて作陶に専念できないから」と、笑う。
波佐見、有田、唐津と窯元をめぐった今回の旅では、唐津の作家として取り上げるべきでもあるが、作陶の系譜として、有田の項で紹介しよう。

天平窯の門をくぐる

上:豊かな自然の中に建てられた工房は、土壁と古材が風情のある造り。
下左:安南手風の線の美しさについて語り合う岡晋吾さんと長尾智子さん。
下右:銀を焼き付けて、その後に銀をそぎ落として、サビ(箔)だけを残そうとした技法。その上に色絵を描き、現代琳派風に仕上げた作品

しっとりと趣味のいい土間で靴を脱ぎ、アトリエへ上がる。李朝の水屋箪笥が随所におかれた心安らぐ空間には白磁、安南手の染付、色絵、土物と作風ごとにまとまりをもって器が並べられている。端からほしくなってしまう、絶妙の頃合いだ。あれこれ手にとりながら、アトリエをぐるりと回った長尾さん「安南手がいちばん多いのですか?」と尋ねる。
「今は安南手が多いですね。私の中では、古い時代のものが一つの指標ですから。昔の匂いや線を大切にしています」と岡さん。
「どこか大陸を感じさせますね。唐草の描き方一つをとっても」と問えば、
「西からきたものに本質的に惹かれるんだと思います」と応える。
さて、気持ちのいい無垢材の大きなテーブルに腰掛けて、奥様がいれてくださった香り高いコーヒーと、近所の柑橘農家からいただいたという天草みかんをいただく。
「わ、こんなおいしいみかんって、ちょっとないですね」と、柑橘類に目がない長尾さんも驚く。白磁の輪花の小皿との映りも抜群だ。
「ぽんと盛っただけで存在感があるというのが目指すところです」という岡さんの言葉を端的に体現している。

上:奥様が淹れてくださった香り高いコーヒーとお茶菓子。
中左:近隣の柑橘農家でとれた天草みかんが輪花の小皿によく映える。
中右:お気に入りの1枚を手にとり、料理の盛りつけに思いを馳せる長尾さん。
下:力の抜き加減が絶妙な色絵角皿。

料理と器のいい関係

あれこれ、話を聞くうちに、岡さんの後ろの本棚に日本料理の全集があることに気づいた。「料理を作ることもお好きなんですか?」と尋ねると、「ええ。実はね、私の陶芸の先生は志の島忠さんなんですよ」というのだ。故・志の島忠さんとは、懐石料理研究科。実家は京都の老舗料亭で、藝大で絵を学んだのち、料理の道に戻り、懐石料理の研究所を設立し、雑誌テレビなどで広く活躍した方だ。岡さんが肥前の窯業書で修業し、独立しようとしたときにたまたま志の島忠さんが仕事で有田にくる機会があり、手伝いがほしいと言われ、それを機に、料理と器の心を学んだのだという。料理人がこぞって使いたがる、岡さんの器の盛りやすさというのは、そんなところに理由があるのだろう。
「志の島先生は、器自体が使う人を受け入れているか、いないかが、はっきり分かれるとおっしゃいました。だから、私は、工藝と器のギリギリのところで作っています」。
そしてもうひとつ学んだことが「料理の仕事と一緒で、ルーツに近いものがいちばん手本になる」という原則。だから、白磁なら李朝、染付なら初期伊万里へと帰っていったのだ。
とはいえ、今の時代の時代背景もあるから、源はそのままに、現代が求めているものを理解して生み出すべく、日々、精進している。「その解釈をが違うと、変なものになってしまう。過去と今がつながっていてどこへ行くのかを考えることが大切です」とも。
一方、具体的な技法はすべて、独学で学んだという。例えば、若いときには赤絵を勉強したが、いっとき絵を描くのがいやになり、白磁に戻り、以来、白磁を一つのライフワークとして追求している。それも古陶を手本に独自に。とらわれない自由な筆使いもそう、自分で切り拓いた境地だ。3歳から書をやっていると聞き、岡さんの絵付けの魅力の謎がとけた。「絵であって絵でない。書に通じる線の勢いや美しさが胸を打つのですね」と長尾さんも納得する。

整頓された工房から見える器の魅力

最後に、作業場へも案内してもらった。恵まれた自然の中にれんがを積んだ、手作りの窯が美しい。陶房では修業中の陶工がせっせと窯詰めしている最中だ。岡さんの作業場を覗くと、驚くほど整頓されている。岡さんの焼く器の清潔感のある美しさそのままだ。器の内径を計るとんぼが無数にストックされているあたりも、力を抜いているように見えて、綿密に計算されていることが窺える。
有田の本流を離れ、唐津に窯を構え、独自の道を歩む岡さん。時代が求める美意識に敏感に、料理が映える器を作り続けていくに違いない。

上左:煉瓦を積んで構築した薪窯。
上中:磁器を焼くには欠かせない白磁石。
上右:庭のところどころに薪を積んで乾かしている。
下左:岡さんのもとで修業に励む陶工たち。窯積めの作業中だ。
下中:成形した器がずらりと並ぶ。乾燥させている途中の段階。
下右:器の径をはかるとんぼが壁一杯に。
下段上:来年(取材時)の干支である龍をモチーフに、さまざまなバリエーションが並ぶ、手びねりの置物。
下段下:きれいに整理整頓された、岡さんの絵付け作業机。
白資の輪花、染付の平皿。白資とは、100%石ではないという意味。岡さんの白磁には若干の土が含まれていて、それがニュアンスになっているのだ。

盛りつけ後を見る

李朝を思わせる、白資の鉢。キリッとした立ち上がりが美しい、表情のあるフォルム。

盛りつけ後を見る

天平窯

佐賀県唐津市浜玉町大字東山田1328-1
tel 0955-56-2061
www.tenpyougama.com


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